建てたい人と建てる会社の『建築ナビ』

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[No.041]
新潟中越地震〜視察を通しての考察<その3>〜
若山 誠治 (若山建築事務所 一級建築士事務所 雨楽)

<執筆者>
若山 誠治(若山建築事務所 一級建築士事務所 雨楽)
<略 歴>
一級建築士
一級施工管理技士
昭和 52年 (有)七和設計
昭和 60年 菊池建設(株)三島工事事務所 所長
平成 9年 菊池建設(株)静岡支店 支店長
平成 12年 (株)リック工房専務取締役設計部長
平成 15年 若山建築事務所一級建築士事務所
雨楽 設立

 前回は柔軟に地震力と付き合った実例をあげた。いろいろと説明不足なのはご容赦ください。
 一般に、地震力に対しては、耐震の考え方と、免震の考え方と、制震の考え方の3種類しかない。前回の実例は免震の部類に入ります。
 免震とは地震力をするりと交わす工法の事です。
 制震とは建物の震動をある装置によって調整する事です。浜松のアクトタワーには頭のてっぺんに巨大な振り子がぶら下がっている。
 では耐震とは何か。建物の硬さと強さで、地震力に対抗しようとする考え方で建物を造ることです。
 この耐震工法には限界があるんですね。はっきり言って地震動そのものが、まだ良く分からない部分が有るんです。

■耐震補強の限界■

 良く分からないまま、だから丈夫に作るしか無い訳で、今回の中越の地震でも新幹線の橋脚部分が破壊されましたが、あれは阪神大震災以降、それまでの安全基準では不十分だという事が明らかになったので、大幅な見直しがおこなわれ、補強工事があちこちで行われたのですが、ここは大丈夫だからと耐震補強がなされなかった所なのです。そこが壊れてしまった。だからまた安全基準は見直されなければならなくなってしまったんでしょうね。

 新潟の新聞に書いてありました。安全基準を満たしているからといって絶対安全は有り得ない。最後は人間の感に頼るしかない。だから身を守るためには、危険を感じる本能的な部分を呼び覚ます必要がある、とか。まあ、あまり建築には関係ないかも知れませんが。強いて言えば、構造的数値はもちろん大切だが、構造的感性を磨く事も更に大切だという事か。

 阪神大震災が818ガル、その被害の甚大さから耐震基準が見直され、建築の現場でも大きな変化があった。今建てられている建物は格段に耐震性能は高まっている。しかし今回の中越地震の加速度は、十日町で1750ガル、小千谷で1500ガル、川口町で2515ガルと新聞紙上で報道されている。想定外の地震力は起こり得る。

■ホールダウン金物がちぎれた■

 激震ゾーンが報道されている。川口町の田麦山から堀ノ内にかけた幅500m、長さ6kmの範囲。建物の9割が大破倒壊した。コンクリートで高床にした雪国仕様の、今回の地震でも強かったといわれた建物も損壊がみられた。

 ここに建つ耐震的配慮がかなり行われた建物を紹介する。
 田麦山地区に建つ2階建て木造住宅、基礎は高床式鉄筋コンクリート構造、築8カ月、オーナーは親子とも建築士、T社のSウォール工法、耐震性には十分配慮したつもりで建築された。
 さすがにこの建物は倒壊を免れている。しかし衝撃的な現実がこの家で見られる。ホールダウン金物のボルトがナットの下でちぎれてしまっているのだ。
 木造の建物の柱に、部分的に引き抜きの力がかかる事は、いろいろな意見がある中でも良く知られている事で、そのためにホールダウン金物が使われている。

倒壊は免れたが・・・ 問題の箇所

■なぜホールダウン金物がちぎれたのか■

 そもそも伝統的な木造の建物には、柱に引き抜きの力はかかりにくかった。柔軟な構造物には、横から力がかかる事によって発生する引き抜きの力はごく僅かだった。木造建築は耐震という視点から補強されるようになって、どんどん硬く頑丈になり、その結果柱が引き抜かれるという現象が起きるようになった。

 また、硬く丈夫な建物は地震力を増幅することが知られている。地面からの地震力は建物の中で増幅され、地面の揺れよりも建物の揺れの方が大きくなるという現象がおきる。
 万が一の地震でも壊れる事が無いように構造を頑丈にする、すると建物内部で地震力も増幅されて、さらに構造を頑丈にしなければならなくなる。その繰り返し。きりがないから、適度な、経験値からこの位でいいだろうという強度に落ち着く、すると想定外の地震が起きて壊れる。
 こうして、この木造建築のホールダウンのボルトはちぎれた。

 たぶん、この建築技術者たちは、地震で壊れてはいけないと、がちがちに強く硬い家を造ってしまったんでしょう。
 たぶん、現場の職人さん達も、それじゃあという訳で、ゆるんじゃいけないと、ボルトナットを、力いっぱいぎゅうぎゅうと締め付けたんでしょう。木構造部分ならいくら締め付けても、ボルトが木にめり込むだけだから、過大なトルクがかかるなんてことはあまりないでしょうが、ホールダウンはコンクリートに埋め込まれている物だから、過大なトルクがかかっていたのかもしれない。
 そこに、強力な地震力がかかる。硬い構造体の中で増幅される。柱が引き抜かれようとする。ホールダウン金物が強力に引っ張られる。すでにホールダウンのボルトは十分に引っ張られている。さらにそれが引っ張られて、ボルトのネジを切ってあるところが弾性域を超えて、ちぎれた。

 大きな音がしたでしょうね。高校生の時、ラウンドバーの引っ張り破壊試験をした事が有ります。
 それにしても、現場でかなり力いっぱいボルトを締めてあったんでしょうね。鉄は、弾性域を超えて塑性域に入っても、すぐには切れないはずだから。ホールダウンは、締め過ぎないほうがいいね。

 耐震建築には限界が有るという事は知っておいていいと思う。強さだけを追求すると思わぬ落とし穴が有るという事か。

 建築はバランスです。構造的にも経済的にもバランスのとれたしなやかな建物を建てて、大きな地震力もさらりとかわすのがいいね。

 次回は、擁壁が崩れる時、をレポートします。

04.12.04 由比 青の家にて 若山誠治